採用ができなくなったWeb制作会社の最悪なるシナリオ

Web制作会社を経営していると、人材不足の話題は避けて通れません。特にエンジニアやディレクターの採用は年々厳しくなっており、多くの経営者が頭を悩ませているかと思います。

しかし、この採用難が続いた先に待っている最悪なシナリオを、本当に具体的にイメージできているでしょうか。今回は、採用ができなくなったWeb制作会社が直面する現実的な危機について、段階を追ってよりネガティブに解説してみようと思います。

第一段階:プロジェクト品質の急激な低下

採用が滞ると、まず現場に現れるのが人員不足による品質低下です。

例えば、生成AIの活用が遅れた環境の場合、これまで3名のフロントエンドエンジニアで担当していた案件を、退職により2名で回すことになったとします。1名あたりの作業量が1.5倍になり、コードレビューの時間も削られる。結果として、以下のような問題が頻発します。

WordPressのカスタムフィールドの実装でバグが発生し、クライアントのサイトが一時的にダウン。急遽修正対応に追われ、他のプロジェクトにも遅延が発生。これまで1週間で完了していたコーディング作業が2週間かかるようになり、クライアントからの信頼失墜につながります。

さらに深刻なのは、Reactを使った複雑なWebアプリケーション開発において、シニアエンジニアが退職した場合です。残されたメンバーだけでは技術的な判断ができず、パフォーマンスの悪いコードが量産される。結果、クライアントのWebサイトの表示速度が大幅に低下し、SEOにも悪影響を与えることになります。

第二段階:既存クライアントからの契約解除ラッシュ

品質低下は必然的にクライアント離れを招きます。

特に月額保守契約を結んでいるクライアントからの解約通知が相次ぐでしょう。例えば、ECサイトの運営を任されているクライアントから「サイトの更新に時間がかかりすぎる」「問い合わせへの対応が遅い」といった不満が爆発。結果として月額数十万円の保守契約を失うことになるかもしれません。

さらに恐ろしいのは、大型案件の途中解約です。総額800万円のWebサイトリニューアル案件で、制作途中にクライアントから「品質に不安がある」として契約解除を通告される。すでに投入した工数分の費用は回収できず、大幅な赤字となります。

口コミによる悪評も広がりやすい業界です。特にBtoBの案件では、担当者同士のネットワークで「あの制作会社は最近品質が落ちている」という情報が瞬く間に共有されてしまいます。

第三段階:新規営業の完全停止状態

人員不足により、営業活動に割ける時間とリソースが皆無になります。

これまで月に10件の提案書を作成していたセールス担当が、制作現場のサポートに回らざるを得なくなる。結果として新規提案は月に2〜3件程度まで激減。さらに、提案書の品質も下がり、受注率も大幅に低下します。

Web制作会社にとって致命的なのは、技術的な提案力の低下です。例えば、クライアントからHeadless CMSの導入について相談された際、適切な技術選定や実装方法を提案できない。Contentful、Strapi、microCMSといった具体的なツール比較や、Next.jsとの連携方法など、技術的な深い提案ができずに競合他社に案件を奪われることになります。

営業プロセス全体が機能不全に陥り、見込み客の管理も疎かになります。CRMツールの更新が滞り、フォローアップも適切に行えず、せっかくの商談機会を逃してしまう悪循環に陥ります。

第四段階:財務状況の悪化と資金繰りの困窮

売上減少と固定費の圧迫は発生すると、会社の財務状況が急速に悪化します。

例えば、月の売上が従来の1,000万円から600万円まで落ち込む一方で、オフィス賃料、サーバー費用、ソフトウェアライセンス料などの固定費は変わらず200万円かかり続ける。人件費を含めた総コストが売上を上回り、毎月の赤字が拡大していきます。

Adobe Creative CloudやFigmaなどのデザインツール、AWSやGoogle Cloudのサーバー費用といった制作に必須のコストもカットできません。さらに深刻なのは、外注費の支払い遅延です。フリーランスのデザイナーやエンジニアへの支払いが滞り、今後の協力関係にも影響を与えることになります。

結果的に銀行からの借入も困難になります。業績悪化により信用格付けが下がり、新規融資の審査が通らない。既存の借入金の返済も厳しくなり、リスケジュールの交渉が必要になるかもしれません。

第五段階:会社清算への道筋

最終的に、事業継続が不可能な状況に追い込まれます。

まず検討されるのが人材の整理、そして事業売却ですが、人材もクライアントも失った制作会社に買い手はつきにくくなります。技術力のあるエンジニアやデザイナーがいない、安定した収益基盤もない会社に投資価値を見出す企業は皆無でしょう。

結果として、会社清算という選択肢しか残されません。従業員への退職金支払い、オフィスの原状回復費用、リース契約の解約金など、清算にも相当な費用がかかります。経営者個人が連帯保証している借入金については、個人資産での返済が必要になる可能性もあります。

特に痛手なのは、長年築き上げてきたクライアントとの関係や業界での信頼を完全に失うことです。同業他社への転職を考えても、「あの会社を潰した経営者」というレッテルがしばらくついてしまうというツケが残ることになります。

今からできる具体的な対策

この最悪なシナリオを避けるために、今すぐ実行すべき対策があります。

まず、採用手法の多様化と生成AIの活用です。indeed、Wantedly、Greenといった求人媒体に加え、GitHubやQiitaでの技術者スカウト、勉強会での直接的なネットワーキング、リファラル採用制度の導入などを組み合わせる必要があります。

同時に、外注パートナーとの関係強化も重要です。信頼できるフリーランスのデザイナーやエンジニアとの継続的な協力関係を構築し、繁忙期や人員不足時のバックアップ体制を整備しておくべきです。

技術的な差別化も欠かせません。例えば、Shopify案件に特化する、WordPress VIPの認定パートナーになる、AWSの各種認定資格を取得するなど、競合他社との明確な違いを作り出す必要があります。

まとめ

残念ながら時間が5年経過すれば、人間も5つ歳をとります。

採用ができなくなったWeb制作会社が辿る道は、決して他人事ではありません。人材不足による品質低下から始まり、クライアント離れ、営業力の低下、財務悪化、そして最終的な事業清算まで、一連の流れは避けられない現実です。

この危機を回避するには、今この瞬間から行動を起こすしかありません。採用戦略の見直し、外注体制の構築、技術力の向上など、できることから順次実行していくことが、会社の存続につながります。

明日から、ではなく今日から。小さな一歩でも構わないので、行動を開始しましょう!

過去に19番目で入社した会社が6ヶ月で50名を超え、カルチャーとマネジメントの機能不全で加速的に崩れていった組織に所属していた経験もあります。今回は最悪のシナリオとなりましたが、見えないところで蝕まれている箇所から崩壊に至る面もあるので、リスクは早々に把握しておくべしですね。